トップ>福島原発千葉訴訟第二陣(控訴審) 第4回口頭弁論期日のご報告
2021年03月25日
福島原発千葉訴訟第二陣(控訴審)は,福島第一原発事故によって千葉県に避難された6世帯17名の方々が,国と東京電力に対して損害賠償責任を求めている裁判です。第1審である千葉地方裁判所民事第5部は,平成31年3月14日,国の責任を否定する判決を言い渡しました。現在,福島原発千葉訴訟第二陣の審理は,千葉地裁から,東京高等裁判所第16民事部へ移っております。
福島原発千葉訴訟第二陣(控訴審)第4回口頭弁論期日が,令和3年1月22日(金)午後2時より,東京高等裁判所101号法廷にて,行われました。
傍聴席は,新型コロナウィルス感染対策防止のため,数に限りがあったものの,概ね埋まっておりました。
第4回口頭弁論期日では,3回目のプレゼンテーションとして,一審原告の方々が主張する損害内容として,低線量被ばくの健康リスク・リスク認知論・中間指針等の3点をつき,合計30分程度かけて,弁護団員3名が法廷で説明しました。以下は,実施した3回目のプレゼンテーションの概要を記載したものです。
なお,東京電力と国は,プレゼンテーションを行いませんでした。
(損害論-低線量被ばくについて-)
・放射線に安全線量はありません。LNTモデルに基づき低線量領域における晩発障害のリスクを評価すると,「ある線量以下ではがんが発症しないという境界線量」,すなわち「しきい値」は存在しません。
・一審原告らがこれまでに引用した各種調査は,数万~数十万人におよぶ大規模な被曝集団を長期間にわたり観察したものです。一審原告らが根拠とした各種疫学研究は,信頼性が高いといえます。一審原告らは,今中哲二氏の協力により,仮に事故後一審原告らが福島県内の元の居住地での生活を続けていた場合,本件原発事故によりどの程度の被曝をしたのか(初期被曝量)について試算を行いました。全員について,年間1m㏜を超過しています。
・一審原告らの被曝線量は「誰にとっても容認可能」とは言えないレベルに達しています。一審原告らの被曝線量推計を踏まえても,一審原告らについて,権利法益侵害が認められることは明らかです。
(損害論-リスク認知論について-)
・低線量被ばくによる健康被害については,科学的知見も対立していて,放射線の危険性に関する情報提供の不全や混乱がいまだに存在しているため,科学的証明にのみこだわって平穏生活圏侵害をの有無を検討することは適切ではなく,科学的知見と併せて避難者がリスクをどう受け止めて避難を選択せざるを得なかったのか,という主観面の考察もなされなければいけません。
・通常人・一般人のリスクの受け止め方には,専門家によるリスク評価とは異なる特徴があり,とりわけ今回のような放射線被ばくについては,通常人・一般人はリスクを高く受け止める傾向があることが,リスク認知についての心理学的研究によって明らかにされています。本件事故及びその後の放射性物質汚染・放射線被曝による健康リスクの問題については,一般人にとって,そのリスクを高く評価されやすい傾向があると心理学的に考えられます。
・避難者の平穏生活圏侵害の有無を検討するにあたっては,主観的考察なくして行うことはできません。
(損害論-賠償額について-)
・原審は,中間指針等と同様に,避難区分に応じて,慰謝料算定の枠組みを決め,避難区分の中で,中間指針の金額をベースに個別事情に応じて微調整を行うという算定方法をとっています。しかし,裁判例においても中間指針等についての裁判規範性を否定し,裁判所を拘束しないとしたうえで,個別具体的な事情を踏まえて中間指針等を超えるような賠償額が認定されています。また,裁判例の中では,明確に中間指針等が慰謝料の最低限の基準を定めていると明確に言及しているものもあります。
・避難区域の分け方に合理性がないことや,中間指針の賠償基準が十分でないことはこれまで主張してきたとおりです。判断をするに当たっては,国の決めた避難区分や賠償基準をそのまま鵜呑みするのではなく,むしろ,様々な知見を検討し,国が定めた区分や基準を積極的に検証していただきたいと思います。
・政治的な決定を乗り越えて,一審原告らを救済しうるのは裁判所しかいません。 “人権の砦”として,慎重かつ公正な審理をお願いしたいと思います。
次回,福島原発千葉訴訟第二陣(控訴審)第5回裁判は,令和3年4月21日(水)午後2時より,東京高等裁判所101号法廷にて,開かれる予定です。
今回の控訴審第4回口頭弁論期日において,一審原告ら・東京電力・国の主張及び提出した証拠の概要は,以下の書面をご覧ください。