トップ>6/17最高裁判決を踏まえた4訴訟原告団・弁護団の声明
2022年07月07日
2022年6月17日,最高裁判所第二小法廷(菅野博之裁判長)は,福島第一原発事故の被害者が提起した生業訴訟,群馬訴訟,千葉訴訟,愛媛訴訟の4訴訟において,国が規制権限を行使しなかったことについて,国の責任を認めないとの判決を言い渡しました。裁判官全員一致の判決ではなく,3対1と意見が分かれた判決でした。
福島原発千葉訴訟第一陣に関する最高裁の判決全文は,以下のURLをクリックすると確認できます。
裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan
判決要旨と判決骨子は,以下のとおりです。
上記最高裁判決を踏まえ,上記4訴訟原告団・弁護団は,下記のとおり声明を出しましたので,お伝えいたします。
記
福島原発事故被害者訴訟 最高裁判決を受けての4訴訟原告団・弁護団の声明
2022年6月17日、最高裁判所第二小法廷(菅野博之裁判長)は、福島第一原発事故の被害者が提起した生業訴訟、群馬訴訟、千葉訴訟、愛媛訴訟の4訴訟において、国が規制権限を行使しなかったことについて、国の責任を認めないとの判決を言い渡しました。裁判官全員一致の判決ではなく、3対1と意見が分かれた判決でした。
多数意見は、仮に、経産大臣が、「長期評価」の想定に基づいて対策をとらせたとしても、東京電力が講じる対策は、敷地南東側に限定した防潮堤の設置に限られたとし、実際の地震・津波が想定地震・津波と規模が異なり、防潮堤が設置されていない湾内東側からの遡上もありうることから敷地への浸水を防げず、事故を回避できなかったとして、因果関係が認められないと結論づけています。
事故の被害救済を求める訴訟は、地裁や高裁で判決が積み重ねられ、そのいずれも、「長期評価」が信頼できるか否か、事故前に予見しえたか否かが争点とされ、すべての判決で、争点に対する判断が示されてきました。
そして、こうした判断の前提として、原子力安全規制法令の趣旨・目的(何のために経産大臣に規制権限を与えているのか)をふまえ、原発に求められる安全性の程度はどの程度であるべきか(伊方原発最高裁判決の「万が一にも」という判示の趣旨のとらえかた)、予測が困難な自然現象について安全規制の基礎に据えるべき知見の信頼性はどの程度であるべきか(伊方原発最高裁判決の「最新の科学技術水準への即応」の趣旨のとらえかた)、さらに重大事故に至る想定が得られた場合に回避するための防護措置に求められる確実性はどの程度であるべきかなどについても判断が示されてきました。
しかし、多数意見は、原子力安全規制法令の趣旨・目的について判断せず、「長期評価」の信頼性の評価も回避し、原発についての安全規制のありかた、事故に至る東京電力と保安院の対応についても判断していません。
むしろ、事故前の国の運用を何ら検証せず、そのまま所与のものとし、その運用から想定される対策を仮定し、その対策では事故は回避できないと仮定し、結果は変わらないから責任なしとするもので、責任を否定する方向で仮定に仮定を重ねています。事故前の国の運用が、原子力安全規制法令の趣旨・目的に照らして適切だったのかという点にも何らの検討を加えず、無条件に前提としてしまっています。
このような考え方が許されれば、運用に対するチェックはなされず、被害を防ぐことができなくても、責任は免れるという話になってしまいます。これではあれだけの被害を生み出した事故から何の教訓も得られません。
多数意見は、各地の裁判の営為に対する敬意をまったく払っておらず、なにより原告の求めたものに真正面から向き合うことをしない、まさに肩透かし判決で、司法に期待される役割を放棄したものというほかありません。
多数意見の実質的な判断部分は約4頁しかなく、文量として薄いですが、内容としても、建屋などの水密化を否定し、防潮堤の設置範囲も津波シミュレーションによって想定津波が遡上する部位(敷地高さを超えると試算されたもの)に限定されるとするもので、重大事故が想定される場合の防護として、多重防護という発想が求められ、推計の誤差を考慮して安全上の余裕を確保するという発想が求められることからも、不当なものとなっています。
また、多数意見は、東側湾内について、「長期評価」に基づいて海抜9.24mの津波が想定され0.7mの余裕しかないにもかかわらず、防潮堤の設置は求められないと判断しました。しかし、この判断は、津波シミュレーションにも誤差があり得ること、安全上の余裕を確保するという考え方に照らしても、非常識なものです。なにより、重大事故に至る危険のある想定津波に対し0.7mの余裕しか確保しない状態で原発を稼働させることについて、福島県など地元自治体が同意をするとは到底考えられず、多数意見は机上の空論でしかありません。
本判決には、三浦守裁判官の反対意見が付されています。三浦反対意見は、原子力安全規制法令の趣旨・目的を明らかにし、「長期評価」の信頼性を認め、東側にも防潮堤が設置されるべきこと、防潮堤の設置に合わせて建屋の水密化の対策が求められ、これにより事故を避けられたとしています。
また、三浦反対意見は、「生存を基礎とする人格権は、憲法が保障する最も重要な価値であり、これに対し重大な被害を広く及ぼし得る事業活動を行う者が、極めて高度の安全性を確保する義務を負うとともに、国が、その義務の適切な履行を確保するため必要な規制を行うことは当然である。原子炉施設等が津波により損傷を受けるおそれがある場合において、電気供給事業に係る経済的利益や電気を受給する者の一般的な利益等の事情を理由として、必要な措置を講じないことが正当化されるものではない」とし、生命・身体の保護と企業の経済活動の利益を天秤にかけるような考え方を明確に否定しました。
保安院の対応についても検討し、東京電力の説明に対し、「保安院は、自らこの点を十分に確認して検討しないまま、その説明をほぼ鵜呑みにした」、「本件長期評価の公表後のいずれかの時点において、本件技術基準の要件該当性等について具体的な検討を行って、その判断をしたことはうかがわれない。これは、法が定める規制権限の行使を担うべき機関が事実上存在していなかったというに等しい」として、その対応を厳しく批判しています。
三浦反対意見は、下級審で判断されたすべての論点について、原告からの提起を正面から受けとめたもので、「第二判決」と評されるものです。実際の地震・津波の規模を強調して因果関係を否定する多数意見に対しも、「『想定外』という言葉によって、全ての想定がなかったことになるものではない。本件長期評価を前提とする事態に即応し、保安院及び東京電力が法令に従って真摯な検討を行っていれば、適切な対応をとることができ、それによって本件事故を回避できた可能性が高い。本件地震や本件津波の規模等にとらわれて、問題を見失ってはならない」と厳しく批判しています。
ここからは、原子力安全規制のありかたについて裁判所としての判断を正面から示し、事故の教訓を判決という形で残そうという決意とともに、後続の裁判官に対して、「原子力安全規制法令の趣旨・目的をふまえ、事件に正面から向き合え」という強いメッセージが感じられます。
原告は、訴訟を通じ、国と東京電力の法的責任を明らかにすることを一貫して重視してきました。責任を明らかにすることで、初めて被害実態に即した救済が実現すること、事故の教訓を明らかにすることで二度と原発事故による被害を起こさないことが展望できると考えたからです。
今回、3対1の判決となりましたが、1を得られたことは貴重な成果です。この1を多数意見にすることが当面の課題となります。その際、強調しておきたいのは、多数意見も、国の主張を認めて、国に責任がないと判断したわけではないということです。
私たちは、初心を思い起こし、後続訴訟において、三浦反対意見が示した判断が、多数意見となることを目指し、かつ、原発被害者訴訟原告団全国連絡会が先に取りまとめた「原発事故被害者の救済に関する共同要求」の実現に向け、すべての被害者、原発被害の根絶を願うすべての国民と連帯し、今後も闘い続けます。
2022年6月28日
「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟原告団・弁護団
原子力損害賠償群馬訴訟原告団・弁護団
福島第一原発事故損害賠償千葉訴訟原告団・弁護団
福島第一原発事故・損害賠償愛媛訴訟原告団・弁護団