当弁護団が,8世帯20名の原発被害者の方々(以下「原告ら」といいます。)の原発事故被害による損害賠償を求めて,東京電力と国を被告とした第1次集団訴訟を提起しています。
第1次集団訴訟第9回裁判が,平成26年11月7日(金)午前10時半から約1時間,千葉地方裁判所601号法廷にて,行われました。
傍聴席は,満席でした。
現在,当弁護団は,第1次集団訴訟の原告らの他にも,10世帯27名の原発被害者の方々の救済を求め,千葉地方裁判所へ集団訴訟を提起しております。
第9回裁判において,裁判所は,特段の事情がなければ,第1次集団訴訟の8世帯20名の原告らと,10世帯27名の原告らを一緒に審理すること(これを「併合」といいます。)を明らかとしました。
つまり,これまでのように別の日程で裁判が行われるのではなく,合計18世帯47名の原告らの裁判が,一度に実施されることになる予定です。
ただ,裁判所は,原発事故による被害実態等原告らのお話しを聞く(これを「本人尋問」といいます。)日を,平成27年1月16日と1月30日のわずか2日しか用意しない方針であることを示しました。
この裁判所の方針に対して,当弁護団は,法廷において強く抗議し,1月16日と1月30日のみならず,2月にも本人尋問の日を用意するよう申し入れました。
その後,原告ご本人より,原発事故による悔しさ等を,法廷にてお話しいただきました。
次回,第10回裁判は,平成26年12月17日(水)午前10時40分より,601号法廷で行われます。
第10回裁判においても,原告本人の意見陳述を求めます。
また,原告本人尋問をどのような手順で行うかについても,決まる予定です。
皆様,ぜひとも,傍聴をお願いいたします。
但し,次回の裁判も,傍聴席の抽選を行わない予定です。
そのため,傍聴席は先着順となりますので,ご注意ください。
なお,第9回裁判において,原告ら・被告東京電力・被告国の主張及び提出した証拠の概要は,下記のとおりです。
記
(1) 当弁護団の主張や証拠の提出
★第29準備書面(本件で求められる具体的な結果回避措置について)の陳述
○概要
① 本件事故が津波による建物内浸水から電源設備等の機能喪失に至ったことを踏まえると,津波による浸水に対する防護策として,炉心の冷却を維持するだけの電源対策や冷却機能の確保が何よりも重要となる。
そして,炉心を冷却する等してシビアアクシデントの進展をできる限り緩和することも重要となる。
② 上記電源対策として,被告らは,以下の措置を求められていた。
㋐ 建屋や非常用電源設備等の重要機器の水密化
㋑ 電源確保のための配電盤や発電機を,地下1階に集中させず,地上階や高所など分散して配置
㋒ 直流電源確保のための蓄電池の備蓄,大容量化
㋓ 非常用電源を確保するための電源車や,直流電源確保のための移動式バッテリー車や可搬性の高いバッテリー配備
③ 非常用ディーゼル発電機は,運転中に大量の熱を発するため,常に冷却・除熱が必要である。
上記冷却機能確保のため,貯水池や海水ビットへの吸い込み用ポンプ,水中ポンプ等の設置や電源を要さずに外部注水を可能とするポンプや海水に頼らない空冷の冷却ラインの準備等複数の確実な注入手段を,被告らは講じるべきだった。
④ シビアアクシデント対策として,被告らは,以下の措置を講じるべきだった。
㋐ 非常用冷却設備が機能しない場合の,代替注水策。消防車等消火系ポンプや,注水接続場所の確保。
㋑ 放射性物質の濃度をできるだけ低減した上で外部に放出するためのベントシステムの構築
㋒ 電源融通策を確保するための,「多重性又は多様性及び独立性」をもった電源対策
★第30準備書面(被告国の情報収集・調査義務について)の陳述
○概要
① 原子力発電事業は,ひとたび事故が起きると広範囲に甚大かつ不可逆的な被害をもたらす潜在的な危険性を有している。そのため,その被害の対象となる国民の安全確保が何よりも優先されるべきは当然である。
原子力発電に関する立法上の趣旨目的,被告国が原子力発電に関して行う規制や関与の在り方,電気事業法が被告国(経済産業大臣)に規制権限を付与した趣旨も踏まえれば,被告国は,情報収集・調査義務を負っている。
② 被告国は,国民の生命・身体を保護するために,当時の知見等を出来る限り調査研究し,危険を回避するための規制やその他措置を講じるべきである。
★証拠申出書(除本理史先生)の提出
裁判所に対して,環境・地域経済学の観点から,「ふるさとの喪失」被害等を立証するために,大阪市立大学教授である除本理史先生の話を聞くように申入れしました。
★意見書の提出
◯訴訟進行に関する意見書(原告本人尋問について)
◯検証等の必要性に関する再度の意見と具体的日程案
◯第9回弁論の進行に関する申出書
(2) 被告東京電力の主張や証拠の提出
★被告東京電力共通準備書面(7)の陳述
○概要
① 中間指針等は,第一線の法学者や原子力の専門家等の委員により,福島県の実情も聴取し,過去の過失責任に基づく類似の裁判例等も踏まえて,公開の議場で十分な審議を策定・公表されたものである。被告東電は,中間指針等に関する一切の意見も述べていない。
中間指針等の内容は,十分に合理性・相当性があり,裁判上も十分に尊重されるに値する。
② 中間指針に基づき被告東電は様々な損害を賠償しているが,いずれの損害項目も,十分に合理性・相当性がある。
★証拠の提出
〇提出した主な証拠
原子力損害賠償紛争審査会の議事録,被告東電が策定したプレスリリース。
(3) 被告国の主張や証拠の提出
★第9準備書面の陳述
○概要
① 原告らが本件原発事故を防ぐために講じるべきであったと主張する「防波堤の新築」等の対策は,基本設計・基本的設計方針の変更を必要とするものである。この基本設計・基本的設計方針の安全性に関する事項について,平成24年の炉規法改正前,経済産業大臣は,技術適合命令等の規制権限を有していなかった。
よって,上記事項について規制権限を行使しなくても,違法ではない。
② シビアアクシデント対策は,平成24年の炉規法改正前,法律によって規制されていなかった。
そのため,平成24年の炉規法改正前,シビアアクシデント対策を規定することは出来なかった。
③ 今回の地震やこれに伴う津波と同規模の地震・津波の到来を予見することが可能でなければ,被告国が規制権限を行使しなくても,違法ではない。
‘長期評価’(地震調査研究推進本部編)や‘マイアミ論文’等の知見を踏まえても,被告国は,平成18年当時,原告らが主張する「福島第一発電所の敷地高さを超える(O.P+10メートル)津波」を予見できなかった。
それでも,被告国は,被告東電ら電気事業者に対して,上記知見の検討を促す等,本件事故発生まで,適切に対応していた。
④ 平成18年耐震設計審査指針において「残余のリスク」の存在を認めていたとしても,これは,行政指導に基づき,念には念を入れて「残余のリスク」を小さくしようとしたに過ぎない。
また,技術基準省令62号等は地震及び津波に対する安全性を考慮することは要求されていないので,省令62号等を改正せずとも,問題ない。
⑤ 被告国は,平成4年にシビアアクシデントが電気事業者の自主的取組みとされた後も,シビアアクシデント対策を推進すべく,被告東電を含む電気事業者に対して,継続的に行政指導を行ってきた。
そもそも,シビアアクシデント対策は各国で対応が異なっていた。また,国際原子力機関(IAEA)が行う総合原子力安全規制評価サービス(IRRS)において,日本の原子力に対する安全規制は全般的に良好であった。
被告国の上記行政指導は,何ら不合理な点はない。
★証拠の提出
〇提出した主な証拠
原子力委員会作成文書,日本海溝・千島海溝周辺海溝地震に関する報告書。