当弁護団が,8世帯20名の原発被害者の方々(以下「原告ら」といいます。)の原発事故被害による損害賠償を求めて,東京電力と国を被告として集団訴訟を提起しています。
平成26年5月9日(金)午前10時半から午前12時にかけて,第6回裁判(第4回準備的口頭弁論)期日が,千葉地方裁判所601号法廷で開かれました。傍聴席は,ほぼ満席でした。
今回の裁判期日において,原告ら,被告東京電力,被告国がどのような主張をしているのか,以下の通り,各主張の概要をご報告します。
なお,次回の裁判は,平成26年7月11日(金)午前10時半より,千葉地方裁判所601号法廷で行われます。
☆ 第6回裁判期日(第4回準備的口頭弁論期日)のご報告
1 法廷におけるやりとり
(1) 弁論の更新
新しい裁判長と右陪席裁判官が,これまで裁判を審理していた左陪席裁判官とともに,今回の裁判を審理することとなりました。
そのため,原告ら当事者は,前回の期日までに法廷で行われたやりとりを,裁判所へ伝えなければなりません(これを「弁論の更新」といいます。)。
そこで,原告ら代理人(当弁護団員)が1,①この原発集団訴訟の目的と意義,②国の責任,③東京電力の責任,④原告らの損害の大きさ,の4つに分けて,これまでの原告らの主張を陳述するとともに,原告本人による避難生活での苦痛等の意見を,合計40分程度かけて,陳述しました。
(2) 原告らの主張や証拠の提出
★被告国と被告東京電力に対する求釈明申立書の陳述
○概要
① 被告らは,原告らが主張している事実について,争うのか争わないのか,きちんと示されたい。
② 被告らは,不明確な主張が多々あるので,原告らの質問に答えて,主張を明らかにされたい。
★第14準備書面(津波に関する被告らの予見可能性及びこれを基礎付ける知見)の陳述
○概要
① 被告国は,敷地高さO.P(水位)+10mを超える津波が発生しうることを予見することが可能であったら,規制権限を行使すべきであった。
本件事故のようなM9クラスの巨大地震・津波レベルまで予見する必要があるという被告国の主張は,誤っている。
② そして,被告国と東京電力は,以下の文献等により津波に関する知見を積み重ねた結果,平成18年5月の時点において,福島第一原子力発電所で,10mを超える高い津波の危険性を認識していた。
・4省庁報告書(太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書)
・津波評価技術(土木学会策定)
・長期評価(文部科学省地震調査研究推進本部「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」)
・溢水勉強会(被告国と東京電力らが立ち上げた勉強会)
・マイアミ論文(被告東京電力が発表した「日本における確率論的津波ハザード解析法の開発」)
★第15準備書面(被告国の第5準備書面~シビアアクシデントに対する認否・反論)の陳述
○概要
① 被告国や東京電力によるシビアアクシデント(過酷事故)対策は,原子炉施設が自然災害等の外的事象により複数の機器が同時に損壊故障する可能性を想定していなかった。
② 被告国がシビアアクシデント(過酷事故)対策として講じてきた措置は,多重防護の考えを反映させず,自然災害等の外的事象を考慮していないこと等から,本質的に必要な対策を欠いていた。
★第16準備書面(本件事故を防ぐために求められる具体的な結果回避措置)の陳述
○概要
① 本件事故の決定的な原因は,津波により,発電機(非常用ディーゼル)・配電盤が浸水した結果,全交流電源が喪失したことである。
② 本件事故前の我が国のシビアアクシデント対策は,外部事象(ex.地震,洪水)や深層防護等の検討が不十分であり,国際基準に大きく遅れをとっていた。また,同対策は,事業者による自主的な取り組みに委ねられ,本件事故前,何ら具体的な規制が被告国により行われなかった。
③ 被告国は,諸外国のように,電源や冷却源を多重化・多様化する等,地震・津波による浸水,浸水を原因とする全交流電源喪失に対する安全規制をとっていれば,本件事故を十分に回避できた。
★第17準備書面(ふるさと喪失慰謝料の内実となる被害の実相について)の陳述
◯概要
① 原告らが主張する「ふるさと喪失慰謝料」とは,原告らが居住してきた地域コミュニティを本件事故により丸ごと奪われ,人格を発達する権利や平穏に生活をする権利を侵害されたことによる損害である。避難生活を余儀なくされたことによる避難慰謝料とは異なる。
“中間指針に定める慰謝料の中に「ふるさと喪失慰謝料」を含んでいる”という被告東電の主張は,誤っている。
② 自然環境や社会環境(ex.文化,スポーツ,経済)が全て破壊されたこと,人間のアイデンティティの原点である「ふるさと」が一方的に破壊されたことが,本件事故の特徴である。
「浪江町被害実態報告書」(浪江町民約1万人のアンケート結果に基づいた分析)に記載されている住民の声を聞くと,自治会・スポーツ・教室等の様々な形での地域コミュニティが一瞬で奪われており,奪われた事による苦痛は計り知れない。
このような状況を十分に考慮した賠償額の算定が行われるべきである。
★第18準備書面(低線量被ばくが健康に及ぼす影響)の陳述
◯概要
① 放射線被ばくが子どもに与える影響等放射線に関する基本的事柄の説明
② 被告国は,ICRP(国際放射線防護委員会)が示す緊急時被ばく状況における放射線防護の基準値である「年間20~100mSv」を踏まえて,「年間20mSv」を,避難指示の基準として採用した。
③ しかし,被告国が採用した「年間20mSvであれば安全」との基準は,科学に基づかず,経済優先の視点から計算されたものであり,放射線に安全線量はないという国際的合意にも反する。
④ したがって,年間20mSvを基準に設定された避難指示区域内か否かによって,賠償の有無・額が大きく異なるのは,明らかに不合理である。
★文書送付嘱託に関する意見書の陳述
◯概要
① 被告らが福島第一原子力発電所において10mを超える程度の津波が発生する可能性を予見し得たことを裏付けるために,裁判所を通じて,被告東京電力や電気事業連合会に対して,保有している津波に関する文書等を提出させる必要がある。
② 被告東京電力は,上記文書を提出させる必要がないと主張する。
被告東京電力の対応は,事実を隠蔽し,自らの責任を回避しようとする姿勢の表れである。
★検証申立書の陳述
◯概要
裁判官に,富岡町や浪江町等原告らの避難前の住居や周辺地域を訪れてもらい,目で見て,手で触れ,本件事故による被害実態を直接把握させる申立。
★証拠の提出
○提出した主な証拠
中央防災会議の議事録や国会事故調の報告書,電力会社が作成した原発安全対策に関する文書,淡路剛久教授の意見書,放射線に関する様々な文献
(3) 被告東京電力の主張や証拠の提出
★被告東京電力共通準備書面(3)の陳述
○概要
① 民法709条に基づいて,「原子力損害」の賠償請求はできない。
② 本件事故における被告東電の過失を審理する必要はない。
★被告東京電力共通準備書面(4)の陳述
○概要
① 被告東電は,原子力損害賠償紛争審査会が策定した中間指針等に基づいて賠償する。
この中間指針等の賠償基準は,裁判上の手続においても十分に尊重されるべきである。
② 中間指針第4次追補を踏まえ,避難が長期化する場合の精神的損害,住宅確保に伴う損害を,賠償する。
不動産の賠償は,本件事故時点における時価が対象になるので,原告らが主張する「フラット35(全国平均額)による再取得価額」により賠償されるものではない。
★証拠の提出
提出した主な証拠は,中間指針第4次追補
(4) 被告国の主張や証拠の提出
★第6準備書面の陳述
○概要
① 福島第一原発の設置を許可したことは,適正に行われており,違法でない。
原告らが主張する敷地の岩盤等の脆弱性等の事由は,事故原因と関わりがないので,設置許可処分の違法を基礎づける事情ではない。
② 規制権限を行使しないことによる責任は,事業者に一次的責任がある。
被告国は,二次的責任を負うにとどまる。
※ 既に陳述した被告国第1準備書面・第3準備書面記載内容と同じ主張を,多々繰り返しています。
★証拠の提出
提出した主な証拠は,福島原発原子炉設置許可・変更許可申請書
2 今後の裁判の日程
第7回期日 平成26年7月11日(金)午前10時30分
第8回期日 平成26年9月19日(金)午前10時30分
第9回期日 平成26年11月7日(金)午前10時30分
※千葉地方裁判所601号法廷で行われる予定です。